株式会社エリオス

CASE 支援事例紹介・対談VOL.1

対談Vol.1

社会企業として注目が集まる、NPO法人クロスフィールズ。共同創業者の小沼氏と松島氏と、創業から関わるエリオス杉浦との対談。起業していく上で必要な出会いとは?パートナーシップとは?これからの時代の働き方とは?

NPO法人クロスフィールズ

パナソニック、日立等の大手企業が続々採用する「留職」というプログラムがある。ビジネスと社会課題をつなぐユニークな事業を提供しているのは、NPO法人クロスフィールズ。2016年にはダイヤモンド社から出版された「働く意義の見つけ方」(著者:共同創業者・代表理事の小沼大地氏)が話題となる。

集合写真

左からNPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事:小沼大地氏、エリオス:杉浦、NPO法人クロスフィールズ共同創業者・副代表理事:松島由佳氏

出会いは「恋に落ちた」感覚「この人を落とすぞ」という気持ち

NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事:小沼大地氏の写真

千載一遇の想い

小沼:鮮明に印象に残っている事は、私がコンコードの渡辺さん(※1)とランチをした時のエピソードですね。渡辺さんは杉浦さんに電話をしたんですけど、その時は繋がらなかったんです。
ランチを終えてお別れして、私が電車に乗って2駅くらい進んだところで、渡辺さんから着信があったんです。なんだろうと思って折り返しの電話をしたところ「今、すぐに戻ってきて」と言われて。
「杉浦さんと電話が繋がったんだけど、杉浦さんがどうしても今、君と話したいらしい」とのことでした。そんな事ってなかなか無いじゃないですか。それで急いで戻って杉浦さんとお会いし、そのまま2時間くらい話をしました。

杉浦:そうそう、コンコードの面談室で2時間くらいディスカッションして・・・。

小沼:そうですね。僕は杉浦さんと話をしていて、もう「恋に落ちた」感覚ですよね。今まで知らない人と2時間も話をしていて、こんなに話が盛り上がる事ってなかった。
今まで副代表の松島とか仲間内ではありましたけど、それ以外にこんなに熱くビジョンについて語った事はないっていう経験だったんです。話が終った後「こんなに凄い人はいない!」「この人を落とすぞ」という気持ちが湧いてきて。この後飲みにいこうという事になったので、一緒に松島を誘いました。

※1 株式会社コンコードエグゼクティブグループ。代表取締役社長CEO渡辺秀和氏。当時、杉浦はCOOとして参画。

「カッコイイ働き方」の先進事例を創る

エリオス:杉浦、NPO法人クロスフィールズ共同創業者・副代表理事:松島由佳氏の写真

信念は裏切らない

杉浦:僕がクロスフィールズに関わりたいと思ったのは2つあります。ひとつは僕の中に「挑戦する人をもっと世の中に増やしていきたい」という想いがある中で、クロスフィールズの事業内容がとても重なっており人材育成という切り口から「ボーダーを超えて挑戦していく人を増やしていく」ということに共感したこと。
もうひとつは、小沼&松島の共同創業者2人の生き方やキャリアそのものですね。まだ当時NPOで、がっちりビジネスを経験した人がソーシャルセクターで起業する事例ってそんなに多くなかったんです。創業以前によく話をしていた事で、設立後3年以内に前職のコンサルティングファームにいた頃の給料を超えたいと言っていた記憶があります。それは別の言葉でいうと「本当に世の中のためになる事をやって、なおかつ給料も高いって、超カッコいい」という先進事例を創るということ。多くの人が「ここを目指したい」とか「こういう生き方をしたい」という風な事例を創っていくって、すごく世の中にとって価値があると思うので、ぜひ関わりたいなって思ったんですね。

松島:かなり初期の頃ですね、杉浦さんとお話ししていて、今ままでは自分の想いを色んな人に相談しても「そんなの無理だよ」と批判される事が多かったんです。けれども杉浦さんは先ほどの挑戦者を応援するっていう言葉を体現されている通り、最初に話した時から「行けるよ!それ!」みたいな凄いポジティブで(全員笑)。
最初から応援してくれたというのが印象的で、それまで批判されていた私たちの荒んだ心に染み入ったというか。「この人といると元気が出てくる」というそんな気持ちになりましたね。

半年間もの間、毎週朝7時からよくやったよね

共感は固い絆に

NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事:小沼大地氏、エリオス:杉浦、NPO法人クロスフィールズ共同創業者・副代表理事:松島由佳氏の写真

小沼:クロスフィールズの設立前、準備段階のことになりますが、杉浦さんに是非アドバイスをいただきたいとお願いしにいきました。杉浦さんは「わかった、1週間に1回朝7時~9時を空けるよ」というお返事をくださいました。僕らは水曜日の朝7時~9時に杉浦さんのメンタリングを受けるというのをマイルストーンにして、少なくとも半年間は毎週会うというのをやっていて、それが社会起業塾(※2)にスイッチしていきました。

杉浦:そこでミッション・ビジョン的なものを考えたり、今後の計画や営業をどうやっていこうかとか話したね。そうか水曜日だったっけ、曜日までよく覚えていたね。

松島:それしか、心の支えがなかったですから(笑)。それにしても当時からお忙しかった杉浦さんが、なぜそんな時間を私たちのために作ってくれたのか?凄い疑問に思っていたんです。

杉浦:疑問に思っていた?(笑)いや、本当に自分が世の中に対して、実現していきたいという事そのものだったからね。振り返ってみると朝7時からよくやったよね(笑)。

※2 社会起業塾:特定非営利活動法人ETIC.が提供する実践的な学びの場。

転機となった日。柔らかいものとハードなもの。

留職プログラムパンフレットの写真

感情は押し殺さない

NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事:小沼大地氏、エリオス:杉浦、NPO法人クロスフィールズ共同創業者・副代表理事:松島由佳氏の写真

杉浦:ひとつよく覚えている事があってね。

松島:私を見て言ってますよね。(全員笑)

杉浦:いつかの横浜の夜、あのー、松島が大泣きした時の話。あの時はビジネスの話もしたんだけど、後は個別のメンタリングというかコーチングに近いような話をしていたよね。

小沼:確かにあの日が転機だったのかもしれないですね。今まで2人ともビジネスバックグランドを強く意識して、社会人経験を積んでいたので「こういう場では事業の話しかしないものである」という、今思えばちょっともったいない理解をしていた。
でも実は起業家はそういったところだけじゃなく、柔らかい部分だとか感情をさらけ出すとか、そういったことも大事なんだって事を、当時は全然分かってなくって。それで突っ走るときがあったりしたんですけど、なんか否が応でもあの日くらいからスイッチが変わっていきました。事業というものを捉えたときに、柔らかいものとハードなもののが両方あるんだって事を直視した初めての経験たった気がします。

松島:それを杉浦さんが受け止めて下さるというか、杉浦さんだから出せたりするものもあったと思います。なんというか、母なる愛っていうか(笑)。杉浦さんには包容力があって、そういう感情的なものを出さなきゃいけない時でもつきあって下さったり、杉浦さんらしい関わり方だなと思いますね。

小沼:自分の人生で出会った人の中で、一番傾聴力があるのは杉浦さんだと思います。夜9時から泣いている若造2人の話を4~5時間「うん、うん」て真剣な顔で聞いてくる。こっちも眠いんだけど(全員笑)・・・。それくらい包み込んでくれるというか、これだけ真摯に聞いてくれるんだったら、こちらもきちんと向き合おうって思うんですね。

杉浦:ああ、ありがとうございます。(照れ笑い)(全員笑)

「教えてもらう存在」から「同志」という関係へ

背中からもらう勇気

NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事:小沼大地氏の写真

小沼:最初の頃の思い出は色々あるんですけど、ひとつは杉浦さん自身が変わっていったプロセスをしっかりと見せて頂いた、そんな感じがあるんです。僕は最初、ベンチャーキャピタリストという認識で杉浦さんとお会いして、何でも知っている凄い人というイメージだった。1~2年くらいはそういうイメージで、ずっといろんな事を教えてもらっているという存在だったんです。ところがある時から教えていただく、教えてもらうという関係性から、同志になっていった感覚を強く覚えているんです。それは杉浦さんがエリオスを創業することを決意したっていう時に、あの時僕は、こんな感傷的な気持ちになるんだって思うくらい、今思い出しても涙が出るような気持ちというか・・・。僕からすると父親のイメージなんですよね、杉浦さんは。ずっと応援してきてもらった父親が、更なる挑戦をされるっていう時に、ものすごく胸を打たれた瞬間で、ああそうかと、そんなことを考えていたんだ、みたいな感じだったんですよ。

「僕は役員を降りる」

エリオス:杉浦の写真

真摯に向き合う心

小沼:僕は杉浦さんとは、本当に同じものを見てお互い進んでいるっていう気がするんです。普通のアドバイザーや役員とは多分違う関係性なのかなという気がしますね。

小沼:しかも、ある時に杉浦さんが「僕は役員を降りる」と言ったんですね。

杉浦:ああ、そうそう、理事をね。「クロスフィールズの成長を加速できる人は他にいるかもしれない。僕がクロスフィールズの理事を降りるというのも含めて検討してほしい。」と伝えたね。

小沼:そんな真摯な向き合い方をする人って、何なのだろうっていう・・・(全員笑)どんだけの包容力があるんだろうって・・・。

杉浦:どう考えても、僕は英語はまったく喋れないし(笑)

杉浦:「グローバル人材育成」をテーマに掲げる団体の中で、クロスフィールズがこれだけ注目されている。そうしたなかで、理事の顔ぶれを少しづつ変えていく必要があるだろうなというのを、自分なりに感じていたタイミングでもあったので。そこは客観的に見ると間違いないから、ちゃんと伝えておかないといけないし、伝えておくのがフェアだなと思ったんだよね。

小沼:思いもよらなかった話をいただいて、杉浦さんと改めて話をしてました。「杉浦さんはクロスフィールズに必要かどうか」・・・(全員笑)

杉浦:した!した!(笑)

小沼:「やっぱり必要だ」とか改めて話をして・・・(全員笑)そんな事も印象に残っています。

杉浦:その瞬間、杉浦個人としては凄く嬉しかったです。役割とか能力的な観点で見れば、自分より優れている人がいるので。逆にそうではない関わり方、自分らしくありのままにクロスフィールズに関われればいいんだと思えて嬉しかったね。

働く事の「夢」その先にある「夢」

書籍「働く意義の見つけ方」の写真

根本はその人の「志」

雑誌の写真

小沼:ソーシャルセクターで働くということ。僕たちが採用を考えるポイントは、「その人との方向性が合っているかどうか」これが一番かなって思います。松島はよく面接で「将来の夢っていったいなんですか?」って聞きますし。クロスフィールズで働く事の「夢」と、その先にある自分自身の「夢」。何を成し遂げたい人なのか。その人の人生の方向性に、クロスフィールズが入ることで、その人の人生も前に進むし、我々も前に進むって思える。
逆に、そこが見えない人はどんなに優秀でも「採用してもどうなのかな?」「その人の時間を無駄にしてしまうんじゃないか」と思ってしまうんです。大変な事はいっぱいあるんで、それを経ても「頑張ってやっていこうぜ」って言えるのは「それは貴方にとっても意味のある事だから」って言えないと、キツイなと思うんです。

小沼:クロスフィールズには、2つのビジョンがあります。『すべての人が、「働くこと」を通じて、想い・情熱を実現することのできる世界』『企業・行政・NPOがパートナーとなり、次々と社会の課題を解決している世界』このビジョンに共鳴してくれる人と働きたいっていうのが、一番なのかなと思います。

松島:その人がどういう風に社会を変えていきたいのか。どういう社会を創り上げていきたいのか。それが一番大事かなって思っています。クロスフィールズがビジョンに揚げていることをそのまま言う人は、そもそもあまりいないですし、自分の言葉で語って、自分の経験でそう思った理由みたいな事も語れる。それが大きな事を言ってなくても良いんですけど、その人の言葉でちゃんと語れている人。きっとその人は人生において、いい経験になるんだろうなってことを信じられたら、色々な事を一緒にやっていけるなと思います。

杉浦:創業期からビジョンを考える癖をつけられたのはよかったですね。日々忙しさに謀殺されて仕事をやっていると、そもそも自分のやっている事って、何のためにやっているんだろうというような気持ちに陥りやすいと思うんです。この本「働く意義の見つけ方」(※3)に書いてあるような事なんですけど、常に「志」の部分を考えるという。そこに重きを置いていくことを創業期に癖づけをしておくと、必然的にそこに立ちもどれるというのは大きい気がしますね。

※3 「働く意義の見つけ方」~仕事を「志事」にする流儀~小沼大地(著)出版社:ダイヤモンド社

「消す」よりは受け入れる「違うこと」に価値を見出す

NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事:小沼大地氏の写真

成長は自身の変化

NPO法人クロスフィールズ共同創業者・副代表理事:松島由佳氏の写真

杉浦:これまで6年間仕事をやってきた中で、創業の時と今と比べて、こんな変化があったとか、自分の中でこんな成長ができたとかありますか?人生に対しての視線に変化とかがあれば聞きたいんだけど。「今」って思っていた通りなのか、そんなことないと思うんだけど(笑)。

小沼:思っていた通りの事なんか起きた事ないんですけど(全員笑)。予想した通りにならないっていう事を受け入れるようにした。これが僕の中では成長だったと思いますね。世の中には光と影が両方あって、いい事もあれば、悪い事もあって。でも、ついつい嫌な事とか、予想もしない不幸な事とか、トラブルみたいなものって見たくないな、起こってほしくないなって思ってしまうんです。けれど「そういう事って起こるだろうな」って覚悟を決める。あるいはそれ自身も含めて、事業だったり自分自身だっていうことを受け入れる。そういう心持ちになってきましたね。昔は「できるようになる」とか「影を消していく」ことが、経営だったり自分自身の成長の進歩だったと思っていたのですが。たぶんそれは、自分に対して無理してしまって続かなくなる。むしろそこをさらけ出して、自分が受け止めた上で、人にもさらけ出していけることの方が強さだと思います。そういう領域がどれだけ増えていくかが大事で、消すよりは受け入れるっていう方が良い。受け止める強さっていうのはついた気がしますね。

松島:私は、この仕事をしていて「違うこと」をすごく価値だと思うようになりました。これまで自分が生きてきた世界って、似たような考えの人が多かったなって。けれども、この仕事をしていると国際的に全然違う立場の人とも会いますし。また自分が経営者の立場の時と、また従業員の立場になった時との「違い」とか。やっぱり「違い」があるからこそ、自分と同じ考えを持っている人っていないんですね。「みんな違う」ってことに、今まで苦しんだ事もありますし、「違う」ことで対立したりすると、わぁーとか思っちゃう事もあるんですけど、それが生み出すものとか、「違い」があるからこそ、より前に進むってことも思ったりもして。「違い」って嫌だなっていうものだったんですけど、いいものだなって思えるようになってきたのが「自分の中の変化」かなって思いますね。

杉浦:なんか懐から深く広くなっているような感じがするね。

幸せに向かっていく挑戦者を増やしたい

ビジネスシーンの写真

猛烈精神は幸せか

杉浦:こうした仕事も含めた新しい生き方に関して、先進事例を創っていけないかなと思っています。僕はずっとベンチャーの世界に入り浸っていて、それこそ30代の頃とかは睡眠時間を削って、とにかく成長に向かっていくっていうような働き方だった。自分もそうだったし、それを起業家にも求めていた感じだったんだけど。でも、そういうものとは全く違う、もっとより良い生き方、良いチャレンジの仕方、幸せの準備の仕方っていうのが芽生えてきている。そういうチャレンジ、挑戦者は増やしたい。その質感は本当にここ数年で変わっている気はします。幸せな(幸せに向かっていく)挑戦者。それを紐解くと「ありのままに生きる」とか「自分らしく生きる」という言葉になってしまうのだけど。「それが本当に自分がやりたい事なのか」そこに対して素直に向き合っていくことの啓蒙活動とか環境づくりっていうのを凄くやりたいなと。幸せなひとを増やしたいんですよね。

小沼:ソーシャルセクターでも最近よく言われていますね。歯を食いしばって義憤からエネルギーで前に進めていくやり方をしている人がまだ多いですが、「自分自身が幸せなあり方でいる」というところをベースに、組織に対して力を行使して、社会に対しても力を行使していく。そうでないと結局はパワフルじゃないし、サスティナブルじゃない。いい意味で、「自分の幸せ」をちゃんと考える。その上で活動するってことは、世の中の流れとして生まれてきていると思うんです。けれども、実戦としては凄く難しいことだとも思いますね。

杉浦:本当にそこは難しいテーマだと思うけど、そうありたいし、少なくともそこは強く意識していきたいと思うよね。

松島:最初から、杉浦さんはその事を一貫しておっしゃって、そういう関わりをしてくれました。それで救われたこと、元気をもらったこととか沢山あったので、今の話聞いて、とても杉浦さんらしいなって思いました。

(取材日:2016年12月7日)